ワイアーフォックステリア|刈らずに抜くという手入れ

ワイアーフォックステリア

「バリカンで刈らないでください」——

ワイアーフォックステリアの手入れで、よく聞かれる言葉です。

この犬種の被毛は、刈るのではなく抜いて整えます。

プラッキング——ハンドストリッピングとも呼ばれる手入れです。

手間もかかり、対応できるサロンも限られます。

それでも、この方法が選ばれるのには理由があります。

この記事では、その理由と実際そしてテリア気質との付き合い方を書いていきます。

結論

ワイアーフォックステリアの被毛は針金のように硬い上毛やわらかい下毛の二重構造です。バリカンで刈ると毛質がやわらかくなり、毛色も薄くなることがありますプラッキング(抜いて整える手入れ)なら本来の毛質が保たれます。そしてこの被毛は汚れが絡みつきやすい——週2〜3回のブラッシングが皮膚を守ります。

この記事でわかること

  • 刈らずに抜くという、手入れ
  • プラッキングの実際
  • 汚れが絡みつく被毛
  • テリア気質との付き合い方
  • 暮らしと、注意したい病気

刈らずに抜くという、手入れ

プラッキングとバリカンの違い
刈るか、抜くか。結果が大きく変わります。

まず、なぜ「抜く」のかを説明させてください。

手入れ方法の比較
方法 毛質への影響 毛色 所要時間
プラッキング 硬い毛質が保たれる 濃く出る 長い
バリカン やわらかくなる 薄くなることも 短い
ハサミ やや保たれる 中間 中間
下毛の処理 抜くと同時に取れる 刈ると残る

硬い上毛は、この犬種の特徴です。

やぶや土から皮膚を守るためそういう毛質になりました。

バリカンで刈ると、その硬い毛が短く切られ、やわらかい下毛が表に出てきます。

結果として、毛質全体がやわらかくなる——

これが、「刈らないほうがいい」と言われる理由です。

⚠ 刈ってはいけない、わけではありません

「バリカンは絶対にだめ」ということではありません。

高齢になって手入れが負担になった、皮膚に疾患があって抜けない——そういう場合には刈るという選択も当然あります。

大切なのは、違いを知ったうえで選ぶことです。担当のトリマーと相談してその犬に合った方法を決めてください。

プラッキングの、実際

実際にどういう作業なのか——

指や専用のナイフで、伸びきった毛を抜いていく作業です。

プラッキングの概要
項目 内容
使う道具 指、またはストリッピングナイフ
抜く毛 伸びきって、抜ける状態の毛
痛みは 抜ける時期の毛なら、ほとんどない
頻度 2〜3か月に1回程度
費用 1回1〜2万円程度
対応サロン 限られる。事前に確認が必要

「毛を抜く」と聞くと痛そうに感じるかもしれません。

けれど、抜くのは「伸びきって抜ける状態になった毛」です。

無理に引っぱるわけではありません。

時期が合っていれば、犬もそれほど嫌がりません。

ただし、時間はかかります。

全身を抜くには、数時間かかることもあります。

時期を逃すと、抜けにくくなる

プラッキングには、適した時期があります。

毛が伸びきって、自然に抜ける状態になったときです。

その時期を逃して伸ばしすぎると——

毛が硬く根づいてしまい、抜くのに手間がかかります。

犬にとっても、負担が大きくなります。

  • 2〜3か月に1回のペースを守る
  • 次回の予約を、そのつど取っておく
  • 毛が伸びすぎてから、あわてない
  • 部分的に自分で抜いておくという方法もある
  • とくに背中や首まわりは、伸びやすい
  • 迷ったら、サロンに相談する

「次回の予約を取っておく」——

対応サロンが少ない犬種ですから、予約が取りにくいこともあります。

帰るときに次を押さえておくペースが崩れません。

対応できるサロンを、探しておく

ここが、この犬種でもっとも実務的な課題です。

プラッキングに対応しているサロンは、多くありません。

  • 迎える前に、近くのサロンを調べておく
  • 「プラッキングはできますか」と直接尋ねる
  • テリア種の扱いに慣れているかも確認する
  • 費用と所要時間を、事前に聞いておく
  • 見つからない場合は、自分で覚えるという方法もある
  • 部分的に自分で行い、全身はサロンという併用も可能

「自分で覚える」という選択肢もあります。

道具もそれほど高価ではありません。

最初はサロンで教わり、少しずつ自分でも行う——

そういう飼い主も実際にいます。

汚れが絡みつく、被毛

硬い被毛の構造
針金のような上毛が、この犬種の特徴です。

この犬種の被毛には、もうひとつ知っておきたい性質があります。

硬い毛が絡み合っているため砂やほこりがからみつきやすいのです。

汚れがたまる場所
場所 たまりやすいもの 頻度
足元・足先 土・砂 散歩のたびに
口元のひげ 食べかす・水 食後に
お腹まわり ほこり 週2〜3回
耳のうしろ 毛玉になりやすい 週2〜3回
放置すると 皮膚に残って炎症を起こす

週2〜3回のブラッシング見た目のためではなく皮膚のためです。

汚れが皮膚に残り続ければ、炎症の原因になります。

そして、口元のひげ

この犬種の特徴的な口元の毛食べかすや水をとてもよく吸います。

食後に拭くことを習慣にしてください。

濡れたまま放置すれば、口のまわりの皮膚が炎症を起こします。

拭いたあとに水気を取る——ここまでを1セットにしてください。

シャンプーと、乾かし方

硬い被毛には、洗い方にも注意点があります。

シャンプーの基本
項目 推奨 避けたいこと
頻度 月1回程度 毎週洗う
シャンプー剤 犬用の低刺激なもの 油分を取りすぎるもの
洗い方 指の腹で泡を皮膚になじませる 爪を立ててこする
すすぎ 時間をかけて完全に 泡が残る
乾燥 根元まで完全に乾かす 自然乾燥にまかせる

洗いすぎには注意してください。

硬い上毛は、適度な油分によってその質を保っています。

頻繁に洗うと毛質がやわらかくなるという指摘もあります。

そして、乾かし方

密な下毛を持つ犬種ですから根元が乾きにくい——

表面が乾いていても、内側が湿ったままということが起こります。

これが、皮膚炎の入り口になります。

洗う時間より、乾かす時間を長く取ってください。

ドライヤーは弱風で、離して当てる——

そして、コームで毛を分けながら根元に風を送ります。

足の指のあいだ、お腹まわり忘れずに乾かしてください。

他の動物・子どもとの、相性

テリアらしい気質ですから、同居する相手によっては配慮が必要になります。

同居・接触の相性
相手 傾向 対策
猫・小動物 追う対象になりやすい 子犬期から慣らす・分ける
他の犬 興奮して追い回すことも 遊びを途中で区切る
同性の成犬 衝突することがある 慎重に段階を踏む
子ども 元気に遊ぶ。悪気はない 興奮しすぎたら止める
来客 吠えることが多い 子犬期の社会化で減らす

「追い回す」のは攻撃ではなく興奮の表れであることが多いものです。

けれど、追われた側にとっては同じことです。

相手が嫌がっている様子飼い主が読み取って止める——

そこまでが、この犬種を飼う責任になります。

子犬のうちに、落ち着いた成犬と接する経験を積ませておくと接し方そのものを学びます。

テリア気質との、付き合い方

テリア気質との付き合い方
興奮しやすさは、この犬種の課題になります。

この犬種も、テリアです。

テリア気質と対応
性質 内容 対応
興奮しやすい スイッチが入ると止まらない 落ち着く練習をしておく
頑固 納得しないと動かない 理由を作って教える
追う本能 他の犬や小動物を追う 呼び戻しを徹底する
よく吠える 猟犬としての名残 社会化と、静かをほめる
活発 運動欲求が高い 1日2回、各30〜45分

とくに「興奮しやすい」という点はこの犬種で意識しておきたいところです。

遊びに熱中すると、自分では止まれません。

他の犬を追いかけ始めると、呼んでも聞こえていない——

そういうことが起こります。

  • 遊びを途中で区切る習慣をつける
  • 落ち着けたときに、必ずほめる
  • 「終わり」の合図を決めておく
  • 子犬期に、落ち着いた成犬と接する経験を積ませる
  • ドッグランでは、他の犬との相性を見る
  • 呼び戻しは、徹底して教える

「興奮を鎮める力」教えられるものです。

そして、それがこの犬種の安全を守ります。

興奮したまま走り出せば、呼び声は届きません。

スイッチが入る前にこちらから切れる——

その状態を作っておくことが、散歩中の事故を防ぎます。

そして、社会化

生後4か月ごろまでにさまざまな人・犬・音に良い経験として会わせておくことがその後を大きく左右します。

しつけは、賢さを味方に

この犬種は、賢い犬種です。

覚えは早く、教えれば身につきます。

ただし、頑固です。

「なぜやるのか」に納得しなければ動きません。

力で押さえつけようとすれば、より強く抵抗します。

「やったら、いいことがある」という形で教えてください。

そして、同じことを繰り返しすぎないこと。

賢い犬種は、退屈するとやらなくなります。

暮らしと、注意したい病気

日々の手入れの流れ
週2〜3回のブラッシングが、皮膚を守ります。

この犬種の基本をまとめておきます。

ワイアーフォックステリアの基本
項目 内容
体重 7〜9kg
体高 36〜39cm
平均寿命 12〜15年
運動 1日2回、各30〜45分
ブラッシング 週2〜3回
プラッキング 2〜3か月に1回

そして健康面

注意したい病気
病気 内容 気づき方
皮膚炎 被毛に汚れが残ることから 赤み・掻く・におい
水晶体脱臼 テリア系で知られる目の疾患 急に目を痛がる・白く濁る
膝蓋骨脱臼 小型犬に多い スキップするような歩き方
てんかん 報告のある犬種のひとつ けいれん発作
難聴 白い部分の多い個体で報告がある 呼んでも反応しない

この犬種でとくに多いのが皮膚炎です。

被毛の構造上、汚れが皮膚まで届いて残りやすいためです。

  • 週2〜3回のブラッシングを欠かさない
  • 散歩後は、足元と口元を拭く
  • ブラッシングのときに、皮膚の色を見る
  • 赤み・においが出たら、早めに受診する
  • シャンプー後は、根元まで完全に乾かす
  • プラッキングは、通気をよくする効果もある

プラッキングには、見た目を整えるだけでなく皮膚の通気をよくする効果もあるとされています。

古い毛を取り除くことで、新しい毛が生え、皮膚に風が通る——

そういう意味でも、この手入れには理由があります。

見た目を整えるだけの作業ではなく、皮膚の健康につながる作業——

そう理解しておくと、続ける意味も変わってきます。

キツネ猟の犬という、来歴

この犬種の性質も、その仕事から来ています。

「フォックステリア」——キツネ(フォックス)のテリアという名前です。

本来の仕事と、今の性質
仕事の内容 求められた性質 今の現れ方
巣穴に潜る 小さな体 7〜9kgの小型犬
地中で対峙する 怖じ気づかない気の強さ 大型犬にも向かっていく
声で知らせる よく吠える 来客に反応する
やぶを走る 硬い被毛 プラッキングが必要な毛質
土を掘る 掘る本能 庭を掘ることがある

硬い被毛も、「やぶや土から皮膚を守るため」そうなりました。

つまり、この毛質は見た目のためではなく実用のためのもの——

だから、その質を保つ手入れに意味があるのです。

そして「掘る」本能

庭がある場合「掘っていい場所」を作るという方法もあります。

やめさせるより、向ける先を変えるほうが現実的です。

迎える前に、確かめておきたいこと

この犬種を迎えるにあたって、確認しておきたいことを整理します。

迎える前の確認
確認すること なぜ必要か
プラッキング対応のサロン 数が限られる
週2〜3回の手入れ時間 皮膚を守るために必須
1日1時間ほどの運動時間 活発な犬種
吠えへの環境 集合住宅では課題になる
両親の目の検査結果 水晶体脱臼は遺伝子検査で分かる
両親の気質 興奮しやすさには個体差がある

「両親の気質を見せてもらう」——

これは、テリア種ではとくに意味があります。

興奮しやすさや気の強さには個体差があり、その傾向は親から受け継がれる部分があるためです。

  • 両親に会い、気質を見せてもらう
  • 水晶体脱臼の遺伝子検査の結果を確認する
  • 「家庭犬として迎えたい」と率直に伝える
  • 生後56日を過ぎているか確認する
  • 待つ期間に、サロンを探しておく
  • 質問に丁寧に答える繁殖者を選ぶ

この犬種は、日本では流通の少ない犬種です。

専門の繁殖者に問い合わせることになることが多くなります。

出産を待つ期間が発生することもありますが、その時間をサロン探しや家の準備に充てられると考えれば無駄にはなりません。

よくある質問

Q. プラッキングとは何ですか?

A. ハサミやバリカンを使わず、指や専用ナイフで毛を抜いて整える手入れです。ハンドストリッピングとも呼ばれます。抜くのは「伸びきって抜ける状態の毛」なので、時期が合えばそれほど嫌がりません。

Q. バリカンで刈ってはいけないのですか?

A. 絶対にだめということではありません。ただし刈ると硬い上毛が短くなり、やわらかい下毛が表に出るため、毛質全体がやわらかくなり、毛色も薄くなることがあります。

Q. どれくらいの頻度で必要ですか?

A. 2〜3か月に1回程度が目安です。費用は1回1〜2万円程度になります。あわせて、週2〜3回のブラッシングは自宅で行ってください。

Q. 対応してくれるサロンが見つかりません。

A. 迎える前に調べておくことをおすすめします。「プラッキングはできますか」と直接尋ねてください。見つからない場合は、自分で覚えるという選択肢もあります。

Q. 皮膚が弱いと聞きました。

A. 被毛の構造上、汚れが皮膚に残りやすい犬種です。週2〜3回のブラッシングは、見た目のためではなく皮膚のためです。散歩後は足元と口元を拭き、赤みやにおいが出たら早めに受診してください。

Q. 興奮しやすいのですが、直りますか?

A. 「興奮を鎮める力」は教えられます。遊びを途中で区切る、落ち着けたときにほめる、「終わり」の合図を決めておく——この積み重ねで変わります。

Q. 散歩はどれくらい必要ですか?

A. 1日2回、各30〜45分が目安です。テリアらしく活発な犬種で、家のなかでも遊ぶ時間が必要になります。においで探す遊びを取り入れると、満足度が上がります。

まとめ|手入れの方法に、理由がある

ワイアーフォックステリアの被毛は、刈るのではなく抜いて整えます。

プラッキング——

手間もかかり、対応できるサロンも限られます。

けれど、この方法なら本来の硬い毛質が保たれます。

そして、皮膚の通気をよくする効果もあるとされています。

この犬種の被毛は、汚れが絡みつきやすい——

週2〜3回のブラッシングは、皮膚を守るための作業です。

迎える前に、対応してくれるサロンを探しておいてください。

手入れの方法にまで理由がある犬種——それを面白いと思えるなら、付き合いがいのある相手になります。

手入れの時間は、体に触れる時間でもあります。

週2〜3回、全身をブラシで通すということは、皮膚の変化やしこりにいちばん早く気づけるということでもあります。

手のかかる被毛は、同時に健康を見る機会を毎週くれています。

迎える前に、この3つを

  • 1近くのサロンに「プラッキングはできますか」と尋ねておく
  • 2週2〜3回のブラッシング時間を、生活のどこに置くか決める
  • 3散歩後に足元と口元を拭く習慣を、最初から作る

この犬種の被毛は、手入れの方法まで決まっています。その理由を知って選べるかどうかが、迎える前の準備になります。